作物の生産性・環境耐性

 作物の収量性や環境耐性が遺伝学的にどのように制御されているか、そのような遺伝的制御が気象や養分などの環境条件にどのように影響されるかを理解することは、今日の栽培学の重要な課題です。当研究室ではイネやトマトの大規模な遺伝解析集団を独自に育成し、浮稲性、深根性、不良土壌耐性や多収性などの重要な農業形質を制御するQTL(量的形質遺伝子座)を調べてきました。最近では、メタボロームやイオノームなどのオミクスデータを形質値としてQTL解析を行うことにより、作物が持つ生産性や環境耐性の遺伝的制御システムの理解を目指しています。また、作物の根圏には多種多様な共生微生物叢(マイクロバイオータ)が生息し、作物の養分吸収や環境耐性の向上に貢献しています。当研究室では、主に根圏土壌のメタゲノム解析や無機成分分析を通じて、共生微生物叢による不良土壌耐性や、微生物叢との共生関係の確立に重要な遺伝的要因に関する研究を行なっています。

原発事故の農業被害調査と復興支援

 2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故により、福島県の農地は広範な被ばくを受けました。県全体の農業生産額の4割を占める米についてみても、今回の原発事故により、県北を中心に高濃度の放射性セシウム吸収が発生し、セシウム吸収の低減に向けた対策の早急な確立が求められてきました。当研究室は、福島県伊達市および郡山市より市政アドバイザーを拝命し、原発事故当年より福島県でのフィールド調査を通じて稲作復興のお手伝いをしてきました。この間に受けた福島の稲作被害の状況については、2017年秋に東大出版会より「原発事故と福島の農業」として取りまとめ上梓しました。最近では、水田だけでなく、山菜のセシウム吸収逓減を目指して、山林での放射性セシウムの動態を調査しています。

新規需要米の特性解析と品種育成

 現在、日本では戦後70年続いたコメ政策が大きな転換点を迎えつつあります。そのような中で飼料イネや飼料米・米粉用米など主食用以外の用途に用いられる米(新規需要米)の需要拡大に大きな期待が寄せられています。新規需要米の普及には、低コスト化のための多収性や、高品質なパンを作る製パン特性といった加工特性の向上が鍵となっています。当研究室では、独自に確立したイネの遺伝解析集団を用いて、千葉県佐倉市や福島県郡山市などをフィールドとして、平成26年より新規需要米の栽培拡大を目指した研究を行っています。実用系統の育成とともに、新規需要米としての品質に関わる「穀粒の粉砕しやすさ」、「米粉の粒度」などを制御する遺伝的要因の同定を進めています